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夕暮れ時、家に帰る途中で晩御飯のおかずを買おうと、私はいつもの商店街へ寄った。
商店街のアーケードは、買い物袋を持った親子連れやご年配の人で賑わう中で、ランドセルを背負った少年の姿を見かけた。
少年はシャッターが閉まった店の前で立ち尽くしていた。
そこは賑わうアーケードの中で、唯一静まり返った空間だった。
「寄り道? 早く帰らないと、ご両親が心配するよ」
少年の横に立ち、私は話しかけた。
少年は驚いた様子で、私の方を一瞬振り向いた。
「父ちゃんは仕事でまだ家にいないから、心配なんてしないよ」
少年の視線の先には、煎餅屋の看板が見える。
私も好きで、何度か買った事がある。
昔ながらの堅焼きの醤油煎餅。
夫婦二人だけで営んでいた。
接客をするのは、世間話が好きな明るいおばあさん。
煎餅を焼くのは、無口で職人気質のおじいさん。
確か数年前におばあさんが亡くなって、その後はおじいさんだけでやっていたはず。
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