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「先生、ここのばあちゃんとじいちゃん、知らない? ここの煎餅、買いに来たんだけど」
ふとシャッターの隅に、正方形の紙が貼られている事に気づいた。
臨時休業のお知らせかと思いきや、そこには「訃報」と書かれていた。
きっと、煎餅屋さんのおじいさんが亡くなったのだろう。
「ここのおじいさん、きっと亡くなっちゃったのね」
少年は、じっとシャッターを見つめたまま立ち尽くす。
私と少年の間に沈黙が流れた。
「何処に行っちゃったのかな。じいちゃんとばあちゃん」
そう呟くと、少年はトボトボと歩きはじめた。
私は心配になって、少年の後を追いかけた。
けれど、途中で少年は私に気づいて、「先生、どうしたの?もしかして、僕のストーカー?」と茶化した。
その意地悪な笑顔は、少年がよくイタズラがばれた時の顔だった。
「気をつけて帰るのよ」
「わかってるよ、先生」
そう言って、少年は背中を向けながら手を振った。
一人の生徒に肩入れするのはよくないとわかりつつ、私の中で少年の事が気になって仕方がなかった。
少年は次の日もしっかりと学校に来ては、友達と廊下を駆け回り他の先生に怒られていた。
その姿を見て、私は半ば呆れながらも安堵していた。
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