1人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕を探しているんだ」
「僕? 君はここにいるじゃない」
「探しているのは、今の僕じゃなくて」
「先生、よく意味がわからないよ」
「僕のばあちゃんね、一年前に死んじゃったんだ。病気でね。それからすぐに、母ちゃんが交通事故で死んで。この公園に少し前までいた野良猫も、商店街の煎餅屋の二人も、神社の石段にいたばあちゃんも、病院で仲良くなった兄ちゃんも、みんな、みんないなくなっちゃったんだ」
「だから、あの時、人は死んだらどこにいくか聞いたのね」
「一年前まで、確かにみんないたんだよ。僕の前にいて、時々叱られたりもしたけど、僕のつまらないギャグで笑ってくれたり、話を聞いてくれたり、僕は楽しかったんだ。それに家を出る時や帰った時だって、母ちゃんとばあちゃんがいて、いってらっしゃいとかおかえりとか言ってくれたんだよ。なのに」
少年はただ前を見て感情を抑えようとしていたが、夕日の光で目が潤んでいるのが見えた。
「あの時の僕は、すごく幸せだったんだ。だから、みんながいた時の僕を探して入れ替わって、僕はもう一度みんなに会いたい。ばあちゃんのしわしわな手を握って散歩したり、母ちゃんにいつもありがとうって言いたい。ね、先生。みんながいた時の僕がどこにいるか知らない?」
少年は溢れ出る涙を拭いもせずに、ただただ私の方を見た。
死んだ人には会えないし、過去の自分に会えない。
それが現実。
けれど、私は少年の純粋な気持ちに、どうやって非情な現実を伝えたらいいのかわからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!