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女子大生
潮田は少し驚いた顔で小暮の横顔を見つめていた。
近くの予備校の生徒だろう。コンビニ店員の間で「ミイラくん」と呼ばれている男子高校生が、はじめて眼帯も包帯もなしに来店したのだ。絆創膏すら1つもない右手は白く、よく見れば整った顔立ちなのだなと潮田はひっそりと頬を染める。
「ミイラくん」はいつもどこかしらに怪我をしていて、少し前までは遂に松葉杖でやって来ていた。片手では商品が取りづらそうだったので、冷蔵ケースのドアを開けてドリンクを取ってあげたことを思い出しながら、潮田は品出しの手を止めてレジへと回る。
潮田が店の外をちらりとみると、名取の姿はもうなかった。そういえば、予備校が終わる頃になるといつも彼はいなくなっているな、と潮田は思った。深夜に店の外に居座ることもあるというのに、いつもこの時間だけすっぽりといない。
ほどなくしてレジにやってきた小暮の会計をこなしながら、潮田は不意に口を開いた。
「怪我が治ってよかったですね」
微笑む潮田に、バックから財布を取り出していた小暮の手が止まる。
「え? ああ……はい。この前はありがとうございました。お茶を取ってくれた方ですよね」
「とんでもないです」
千円札を受け取りながら、潮田ははっきりとした違和感を感じていた。おめでたい話のはずなのに、あきらかに彼はこの話題で気落ちしている。
怪我をしたままの方がよかったということだろうか? とも思ったが、そんなわけがないとやはり潮田は思い直した。
「気をつけて」
「ええ……あなたも」
商品の入ったビニール袋を手に取ると、小暮は颯爽とその場をあとにしていた。不思議そうにその背中を見送る潮田の視線に気づきながら、小暮は店の外でほんの一瞬歩みを止める。
ゴミ箱の前に散らばった煙草の吸殻は、小暮が唯一知っている銘柄だった。
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