ある少年

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「なんか教室臭くない?」 せせら笑うようにいじめっこの同級生が言った。クラスで清掃をしていた同級生たちは手を止め、騒ぎ始めた。 「くせえな!」 「ゴミみたいな匂いがするー」 いじめっ子たちは鼻をつまみながら、大げさに叫んでいた。同じくクラスメートである浩紀に聞こえるように。 健太もその騒ぎに気付き、掃除の手を止めていた。 「浩紀、お前ちゃんと風呂入ってるの?」 いじめっ子たちは、浩紀の目の前でからかうように言った。 確かに健太から見ても、浩紀は異様な匂いがした。汗と泥臭さが混じったような臭いだった。浩紀は毎日同じ服を着ており、書道の時間には道具を持っていないから授業が受けれないと、騒ぎになったことがある。 「もう学校来るなよ!迷惑だからさ」 浩紀は無視して、箒を動かしている。 「ねえ聞いてるの!?」 いじめっ子の一人が浩紀の箒を蹴っ飛ばし、 大声を出した。くすくす笑いが四方八方から起こる。浩紀が箒を拾おうと手を伸ばすと、いじめっ子が箒を踏んづけた。 「早く、箒取れよ」 すると浩紀は体を起こし、何かつぶやいた。 「浩紀君、なんて?」 それを笑い合ういじめっ子たち。 「聞こえねーよ」 浩紀は笑っているように見えた。 「赤ちゃんてどうやってできるか、知ってる?」 一瞬、教室が静寂に包まれる。 「何言ってんのこいつ?」 いじめっ子たちの笑い声が一層強くなる。 「やっぱ頭おかしいわ!」 すると浩紀はいじめっ子の服をつかみ、引き寄せて言った。 「なんだよ」 少し驚いているようだった。 「お前の母ちゃんと俺の父ちゃんやったらしいぞ」 教室が静寂に包まれる。その言葉の不気味さを、皆が感じていたのだ。 いじめっ子からは弄ぶような声色が消えていた。 「やったって・・・何を?」 「馬鹿だなあ。赤ちゃんができるってことだよ。俺とお前の、弟か妹ができるんだよ」 「何言ってんだよ!」 「お前の母ちゃんが産んでくれるんだろ?俺みたいに臭い子供」 浩紀の狂ったような笑い声が、教室に響いた。 そして何事もなかったかのように、浩紀はまた掃除を始めた。 いじめっ子は意気消沈したように立ち尽くしていた。やがてまた清掃が始まり、いつも通りの活気が戻っていく。 「すごい・・・」 健太は呟いていた。
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