ある少年

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「浩紀くーん!」 健太は浩紀を追いかけて言った。 「・・・どうしたの?」 健太は荒い息を吐きながら、目を輝かせて言った。 「浩紀君、歩くの早すぎ・・・」 「みんなと帰らなくて平気なの?」 「・・・たまにはね」 健太は浩紀に微笑みかけた。敵じゃないことを示したかったのだ。 どちらにしてもめんどくさいのが来た、と言わんばかりのため息をつき、浩紀は歩き始めた。 「浩紀君、すごかったね!」 健太も負けじと、ついていく。 「何が?」 「さっきのだよ!あいつら黙らせちゃうなんてさ!」 「健太君はあっち側の人間だと思ってたけど」 「・・・どっち側でもないかな、たぶん」 浩紀は健太を睨んで言った。 「そういうの、一番性格悪いと思うよ」 「・・・」 健太は胸の奥を針で刺された気がした。 そんなの、自分でも分かっているよ。 「僕、意気地がないから・・・」 「あのさあ!」 立ち止まって叫んだ。 蝉が鳴く声だけが、辺りに響く。 浩紀は呆れたようにため息をついた。健太にはその表情が大人びたものに見えた。 これだ。これが僕にはないものなんだ。 「もういいよ」 浩紀は歩みを速めた。 「待って!」 その声は虚しく響く。 何か引き留めなければ! 健太の脳裏にはさっきの浩紀の言葉が頭に浮かんできていた。 「さっきの・・・やったって、何をやったの?赤ちゃんができるって、何?」 浩紀はまた立ち止まった。 「浩紀君、教えてよ」 浩紀は前を向いたまま話した。 「・・・健太君は、知らないの?」 「・・・うん」 汗で滲んだシャツが嫌にまとわりつく。 浩紀は、いじめっ子のように笑った。 「健太君、何も知らないから、弱いんじゃない?」 「・・・それを知ったら、僕も浩紀君みたいに強くなれるの?」 「なれるよ。お母さんに聞いてみてよ」 浩紀は吐き捨てるように言い、健太を置いて歩いて行った。
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