ある少年

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「お母さん、教えてくれなかった」 「何を?」 「赤ちゃんの作り方」 「そりゃそうだよ」 浩紀は馬鹿にするように笑った。 浩紀と健太は、誰もいなくなった学校の屋上にいた。 「・・・お母さん、優しい?」 大人びていたはずの浩紀の表情が、少年の顔に戻った気がした。 「優しいよ。浩紀くんちは?」 「・・・うちお母さんいないんだ。健太君、いや、もう健太って呼ぶな。健太の家は勝ち組なんだよ。何もかも」 いつもの浩紀の表情に戻っていた。 「勝ち組?」 浩紀はどこか寂しそうだった。 「うちは・・・社会の負け組なんだ」 「負け組って、何それ?」 「何も知らないんだな。勝ち組の家の子供は」 そこに立っているはずの浩紀が、どこか遠くにいるように感じる。 「ちゃんと、赤ちゃんを作る方法、探してよ」 「うん、分かってるよ。そうすれば、浩紀君みたいになれるんでしょ?」 強い日差しがやけにうっとおしかった。 「・・・なんで全部、信じるんだよ」 浩紀は健太に背を向けた。 「俺な、お父さんがやり捨てした女から生まれたんだって。だから、大事にしないんだって」 浩紀は震える声で言った。 まただ。浩紀は大人びている。 僕もこういう表情ができるようになりたい。 しかし今の健太には、浩紀にかける言葉を見つけることはできなかった。
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