10人が本棚に入れています
本棚に追加
「お母さん、教えてくれなかった」
「何を?」
「赤ちゃんの作り方」
「そりゃそうだよ」
浩紀は馬鹿にするように笑った。
浩紀と健太は、誰もいなくなった学校の屋上にいた。
「・・・お母さん、優しい?」
大人びていたはずの浩紀の表情が、少年の顔に戻った気がした。
「優しいよ。浩紀くんちは?」
「・・・うちお母さんいないんだ。健太君、いや、もう健太って呼ぶな。健太の家は勝ち組なんだよ。何もかも」
いつもの浩紀の表情に戻っていた。
「勝ち組?」
浩紀はどこか寂しそうだった。
「うちは・・・社会の負け組なんだ」
「負け組って、何それ?」
「何も知らないんだな。勝ち組の家の子供は」
そこに立っているはずの浩紀が、どこか遠くにいるように感じる。
「ちゃんと、赤ちゃんを作る方法、探してよ」
「うん、分かってるよ。そうすれば、浩紀君みたいになれるんでしょ?」
強い日差しがやけにうっとおしかった。
「・・・なんで全部、信じるんだよ」
浩紀は健太に背を向けた。
「俺な、お父さんがやり捨てした女から生まれたんだって。だから、大事にしないんだって」
浩紀は震える声で言った。
まただ。浩紀は大人びている。
僕もこういう表情ができるようになりたい。
しかし今の健太には、浩紀にかける言葉を見つけることはできなかった。
最初のコメントを投稿しよう!