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「お姉さん、なんでいつもいるの?」
ホテルの前にいる制服を着た女性に、健太は話しかけていた。
「仕事なの。君こそ、なんで毎日来るの」
「だって帰り道だし」
「・・・だからって話しかけなくてもいいでしょうよ」
「お姉さん、ホテルの前で立つだけの仕事なの?」
「ちょっと違うかな。お客さんの相手をする仕事」
「じゃあ僕もお客さんになれる?」
「君はだめだよ。小さいもん」
甘い匂いを発しながら、制服の女性は言う。
「さあ帰りな?お母さんが心配するよ?」
女性は健太を優しくなでた。
まるで母に撫でられたように、心が温かくなる。しかしここで負けてはいけない。
「ねえねえ、赤ちゃんてどうやってできるか知ってる?」
この人なら、教えてくれるんじゃないか。
「同級生にね、言われたんだ。それを知ったら大人になれるって」
「・・・その友達、すごい子だね」
「なんかね、お父さんがやり捨てした女性から生まれてきたんだって」
「・・・僕、意味わかって言ってる?」
女性の顔が一瞬固くなった気がした。
「・・・全然分かんない。でも大人になれるんだって。そういうこと知ってないとダメなんだって!」
「その子のお母さんは?」
女性は、妙に慎重な声で言った。
「いないよ。いつも臭いっていじめられてる。お風呂に入ってないから」
「君もいじめてるの?」
「そんなひどいこと、する子に見える?助ける勇気はないけど・・・」
女性はびいどろのような目で、健太を見つめた。
「君、いい子だから教えてあげる」
「何を?」
「赤ちゃんの作り方」
女性は急に、健太の頬にキスをした。健太の顔が真っ赤になった。
お母さんにキスされる時とは違う。
「またおいで。ここで待ってるから」
女性は弾けるように笑っていた。
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