一人と一羽

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 国の外は、海水と呼ばれる塩水で囲まれていた。海水は遥か遠くまで続き、その先を知る者はまだいない。 「うわ、あれが黒い兎かい。気味が悪い」 「ほら、奥さん。目も白い。嗚呼怖い。あれがあの……」  潜めているであろう声は、一人と一羽にしっかりと聞こえていた。普段は明朗快活なクロも、こればかりは意気消沈してしまっていた。その理由は、鳥獣の身体の色にあった。  この世で生まれる鳥獣は白いのだ。赤い目に、白い毛や白い皮で生まれる。色素を余り持たずに生まれることが普通だったこの世に、初めて、ただの一羽が白い目に黒い身体を持って生まれたのだ。  色素が少ない彼らの目は、その身に通った血の色を映し出すが、クロの目は血の色ではない白だった。その目は透き通るどころか曇っており、光を飲み込むような淀んだ曇りだった。  クロは生まれてすぐ、親に捨てられた。正確には、気付けば一羽ぼっちだった。行く宛もなくさまよい、街外れの小さな小屋にたどり着いた。小屋は豚小屋の様であったが、住む者の形跡もなかったので、そこに身を寄せた。  クロのことを知るからこそ、ツキユミは冗談めかして言った。     
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