揺れる天秤

8/8
91人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
 ツキユミの言葉に、クロの全身の毛が逆立った。クロの異常に気付いたツキユミはクロを優しく擦った。 「どうしたの? 大丈夫?」  クロにも何が何だかわからない様子であった。 「わ、わからない。急に、ぞわあってした」  科学が目覚ましい発展を遂げる中、曖昧な存在は淘汰されていくのだろうか。曖昧な存在とは何か。命そのものが、曖昧な存在ではないのか。  震えるクロを抱き上げ、ツキユミは釣りと畑仕事を早々に切り上げた。  薄暗い洞窟の中、蛇の舌が小さな小瓶を捕らえていた。愛しそうに、愛でる様に小さな小瓶を捕らえていた。 「私はね、好物は最後にゆっくりと時間をかけて味わう。欲しい物は揃わずとも、この小瓶さえあれば十分。時間をかけて産み出そう。研究とはそういうものだ。ゼンキ、ゴキ。始めようか」  蛇の傍らには、涎を垂らし、目が虚ろになった狼がいた。 「肉の味を、血の味を教えてやろう」  声にならない遠吠えが、湿気に混じりかき消されていった。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!