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ツキユミの言葉に、クロの全身の毛が逆立った。クロの異常に気付いたツキユミはクロを優しく擦った。
「どうしたの? 大丈夫?」
クロにも何が何だかわからない様子であった。
「わ、わからない。急に、ぞわあってした」
科学が目覚ましい発展を遂げる中、曖昧な存在は淘汰されていくのだろうか。曖昧な存在とは何か。命そのものが、曖昧な存在ではないのか。
震えるクロを抱き上げ、ツキユミは釣りと畑仕事を早々に切り上げた。
薄暗い洞窟の中、蛇の舌が小さな小瓶を捕らえていた。愛しそうに、愛でる様に小さな小瓶を捕らえていた。
「私はね、好物は最後にゆっくりと時間をかけて味わう。欲しい物は揃わずとも、この小瓶さえあれば十分。時間をかけて産み出そう。研究とはそういうものだ。ゼンキ、ゴキ。始めようか」
蛇の傍らには、涎を垂らし、目が虚ろになった狼がいた。
「肉の味を、血の味を教えてやろう」
声にならない遠吠えが、湿気に混じりかき消されていった。
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