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「どうした? 何か思ったことがあったのか?」
思ったこと。ツキユミ自身のことであるのに、ツキユミにはわからない能力だった。
自身の心に問いただし、吉と出れば吉となり、凶となれば凶となる。
「ツキユミ。これでも俺は二歳年上だからな。話くらい聞けるぞ」
ツキユミはクロの白い目を見つめた。あの時、ツキユミが心に問いただし得た答えは凶だった。視えた光景はあの男ではなく、何故か横たわるクロの姿だった。
ツキユミは笑顔を作った。
「クロが人参を食べ過ぎて腹を下す姿が見えた」
クロは恥ずかしそうに耳で顔を隠した。ツキユミはその姿に安堵した。
「帰ろう。トマト潰れていなければいいけど」
ツキユミはクロを一撫でして小屋を見た。すると、小屋の窓から白く細い煙が流れ、灯りが見えた。互いに顔を合わせると、一目散に駆け出した。
勢い良く扉を開けると、美味しい匂いがした。
「……さんぺい汁だ」
部屋の中央にある火元の上には鍋がぶら下がり、スケソウダラの頭がはみ出している。米の炊ける匂いもした。
「は、白米だ! 一体誰が……」
クロは久々のご馳走に涎を垂らした。ツキユミは耳を済ませ、土が剥き出しの床に手を当てた。耳を済ませ、手に意識を集中させた。
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