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託宣の行方
ツキユミの今朝の目覚めはとてもすっきりしていた。昨晩、成長期の身体に、満足な栄養が行き渡ったからだろう。隣で眠りこけるクロのお腹は、些か丸みを帯びた様に見えた。
「白米もさんぺい汁も食べ切ってしまったなあ」
どこか残念そうにツキユミは呟いた。
昨日の夜に知ったこと。電気信号なるものが管理する社会が今、ここにあるということ。その電気信号が、個人を認証し、証明するものになること。スサノオと名乗った男は、中央庁副官という官職付きの男だったこと。そして、視てしまった光景にクロが関わっていたこと。ツキユミの意識はうっすらと続き、眠れたかどうかは定かではなかった。
「あのスサノオとかいう男。今夜迎えに来ると言ってたなあ」
ツキユミは腕を組み考えた。たとえ、クロとどこかへ隠れたとしても、スサノオを煙に巻くことは不可能だと理解している。
「どうして。ただ生きることさえもままならないのか」
ツキユミは、無防備に眠るクロの腹をつついた。枕元には、スサノオからの贈り物である人参が置いてあった。
「暢気に眠りこけている場合か! この大福兎め!」
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