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揺れる天秤
スサノオは思い出していた。かつて、ヤマタノオロチと呼ばれる八つの頭を持つ身の大蛇と対峙したことを。
両者必死だった。スサノオは惚れた姫を、ヤマタノオロチは自身の領地に根付く水田と木々を、それぞれが守るべき者たちのために命を懸けて戦った。
「俺は英雄などではない。ヤマタノオロチよ、お前の最期の言葉、今も思い出すよ」
スサノオはクニトコの顎を撫でた。クニトコは喉をごろごろと鳴らした。コノハナに待つ様に言われた部屋には、スサノオの大好きな酒瓶が並べられていたが、スサノオにはそれに目を向ける余裕がなかった。
「スサノオ。オオクニ殿がお着きの様だ」
複数の足音と共に、騒がしい声が響いて来た。
「コノハナ! 何で俺の酒屋で待たせるんだ!」
「だってヒナ先生。ヤゴロモ爺様は今、ニニギ様の回診を受けている最中ですもの。スサノオ様とオオクニさんが顔を合わせて喧嘩でも起こされては困りますわ」
息を切らすヒナと比べ、コノハナは息の乱れ一つなく、平然と答えた。その賑やかな様に苦笑しつつも、スサノオは事の次第を簡潔に述べた。
「研究所からウイルスサンプルが盗まれた。死傷者も数人出ている」
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