ふたりのカンバス

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「芽衣。今いくつだっけ?」  「二十二歳……」  これまた絶妙な年頃。私も二十五歳になるわけだ。当たり前だけど。ふむ、絵のことはさっぱりわからないけど、ひとつ、人生経験の豊富さでカバーしてやろうじゃないか。 「それで、キョーちゃんにお願い! 絵のモデルになって!」  「え!?」  え!? と驚いたのは『絵』とかけた駄洒落じゃないよ。 「……ダメ?」  だ、ダメじゃないけど、良いの? ……か?  「えっと、モデルって専門の人に頼むとかじゃないの?」 「そんなことないよ。それに、私、今、キョーちゃんを描きたいんだもん」  おいおい、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。 「ははは。芽衣の頼みじゃ、断れないなー」  まあ。悩み事相談得意じゃないし、絵のモデルくらいなんぼのもんじゃい。  さあ、こいと、私は背筋を伸ばし、胸をはってみせた。 「……良い。キョーちゃん、凄く良いよ!」 「ほ、ほんと?」  内心に、ニンマリ。これでも身体の線には自信がある。 「じゃあ、一枚脱いで」  ……シャツの下はスポーツブラ一丁なんだが。まあ、いいか。 「あ? ああ。これでいい?」 「もう、一枚」 「はい?」 「あと、一枚脱いで」 「あの、上、裸になっちゃうんだけど」 「なって」 「マジか」  アレよアレよと脱がされてしまった。いや、芽衣は何もしていない。  言われるままに私が脱いでいたのだ。下まで、全部。  泣き虫芽衣がまさかの『脱がせの芽衣』になっていたとはキョーちゃん、びっくりしちゃったな。しかし、不思議と抵抗はなかった。 「キョーちゃん……綺麗……」  「…………」   私はありがとう……と、言いたかったのに慣れないことをしているせいか声が出せなかった。自分で言うのもなんだが、私は、顔の作りがそこそこ派手で、俯いていると、女性に声をかけられることが多々ある。そういう意味で芽衣も言ってるのだろう。  スケッチブックにシュッシュと鉛筆が走る音だけがする。      椅子に座って右膝を抱えるポーズがなかなかに苦しい。最初にあった微かな羞恥心より己の肉体との勝負となっていた。 「め……芽衣……まだ……」 「ジッとして! 今、ビビットが顔にきてるんだから!」  「び……『びびっと』って何? 専門用語?」 「……黙って」 「ははッ」  ……怖い。アートわからん。
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