序章 DEAREST

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   「   」    さよならを告げたときには、まだわからなかった。  ぐらりと後ろに傾いていく体と、白くて細い首から吹き出す真っ黒な血と、真ん中だけきゅっと小さくなった瞳を視て、気がついた。  これで、本当に終わりなんだ。    あっけない。   裂けた首からひゅうっと息が漏れた。  命が漏れる音だ。  血と、命を夜の中に撒き散らしながら、女の子の体はぐしゃりと地面に崩れ落ちた。指先はまだ痙攣したみたいに動いているけれど、女の子がここから起き上がることはない。  もう、もとには戻らないんだ。  「下手クソ」  「うん」  だって初めてだもの。    そう云うと、年上の少女はそっか、と鼻を鳴らして斧を振り下ろした。  首から頭がころん、と離れた。  女の子はふたつに分かれてしまったのに、体が魚みたいにびくりと跳ねた。  びっくりした。思わず後ずさってしまった。  「死体ってそうなるんだよ」  と、年上の少女は、なにやら難しいことを云った。セキズイハンシャって、聞いたことがない。 そんなものがあるのかと、感心した。  女の子の体はもう動かない。  暗い色の地面に、首から流れ出た真っ黒な血が染み込んでいく。  むっとする血の匂いが濃くなっていく。  故郷に降る雨の匂いを思い出した。    「あんたは物を知らなさすぎるよ」  「うん」   年上の、この少女はすっかり大人びて、今ではもう少女というより娘と呼んだ方が良さそうな様子だ。  血まみれの斧の先を地面についてもたれている姿が大人っぽい。  しばらく見ない間にすっかり大人になってしまったのだと、気がついた。  もう少女じゃないんだ。  一緒にいた頃は、今の自分よりもずっと幼かったはずなのに。  横顔とか、息を吐くときのちょっとした仕草に幼い頃の面影を見つけては、心のどこかが、ああ、と声を上げるだけの時間を離れて過ごしていたのかと思うと、悲しかった。  自分はまだ少女とこどもの間くらいのところにいるのに。置いていかれてしまったような気分だ。     つま先で金色の髪に覆われた頭をちょいとつつくと、頭は簡単に転がった。  まるでそっぽ向くみたいに少女から顔を背けた。少女はちょっとだけ笑った。駄々っ子みたいだ。  「似てるよね」  少女が―娘が女の子の頭を覗き込む。  「そうかなあ」  「そっくりだよ」  「顔だけでしょ」  「そこが重要なんじゃないか」  「そうだけどさあ」       
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