3人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「 」
さよならを告げたときには、まだわからなかった。
ぐらりと後ろに傾いていく体と、白くて細い首から吹き出す真っ黒な血と、真ん中だけきゅっと小さくなった瞳を視て、気がついた。
これで、本当に終わりなんだ。
あっけない。
裂けた首からひゅうっと息が漏れた。
命が漏れる音だ。
血と、命を夜の中に撒き散らしながら、女の子の体はぐしゃりと地面に崩れ落ちた。指先はまだ痙攣したみたいに動いているけれど、女の子がここから起き上がることはない。
もう、もとには戻らないんだ。
「下手クソ」
「うん」
だって初めてだもの。
そう云うと、年上の少女はそっか、と鼻を鳴らして斧を振り下ろした。
首から頭がころん、と離れた。
女の子はふたつに分かれてしまったのに、体が魚みたいにびくりと跳ねた。
びっくりした。思わず後ずさってしまった。
「死体ってそうなるんだよ」
と、年上の少女は、なにやら難しいことを云った。セキズイハンシャって、聞いたことがない。
そんなものがあるのかと、感心した。
女の子の体はもう動かない。
暗い色の地面に、首から流れ出た真っ黒な血が染み込んでいく。
むっとする血の匂いが濃くなっていく。
故郷に降る雨の匂いを思い出した。
「あんたは物を知らなさすぎるよ」
「うん」
年上の、この少女はすっかり大人びて、今ではもう少女というより娘と呼んだ方が良さそうな様子だ。
血まみれの斧の先を地面についてもたれている姿が大人っぽい。
しばらく見ない間にすっかり大人になってしまったのだと、気がついた。
もう少女じゃないんだ。
一緒にいた頃は、今の自分よりもずっと幼かったはずなのに。
横顔とか、息を吐くときのちょっとした仕草に幼い頃の面影を見つけては、心のどこかが、ああ、と声を上げるだけの時間を離れて過ごしていたのかと思うと、悲しかった。
自分はまだ少女とこどもの間くらいのところにいるのに。置いていかれてしまったような気分だ。
つま先で金色の髪に覆われた頭をちょいとつつくと、頭は簡単に転がった。
まるでそっぽ向くみたいに少女から顔を背けた。少女はちょっとだけ笑った。駄々っ子みたいだ。
「似てるよね」
少女が―娘が女の子の頭を覗き込む。
「そうかなあ」
「そっくりだよ」
「顔だけでしょ」
「そこが重要なんじゃないか」
「そうだけどさあ」
最初のコメントを投稿しよう!