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「どうかされました?」
「! い、いえ。なんでもないです」
「そうですか? それならばよろしいのですけど……」
心配そうに首を傾げたセシリアさんの声に意識が戻って、首を振ると安堵したように胸をなで下ろす彼女を見る。
「それにしても、いい眺めである」
「へ?」
「えぇ、そうですね。壁という柵に囲まれてあるとはいえ、背景魔法が張られていて季節を感じられる風景はとても素敵なものです」
いつの間にか隣に座って、ゴシゴシと身体を擦りながら泡に包まれていくフルジュさんがこちらを見て発する言葉に、頷いたセリシアさんも隣に座って仰け反り、身長二つ分ほどある木の柵に紅葉が張った木々と風に揺られて、赤色や黄色の木葉がはらはらと落ちていくという景色が投影されていた。
――気が付かなかった……。
自分の身体(特に一部)を見ないようにしていたとはいえ、周囲まで見ていなかったため眼前に広がっているものが偽物であるとはいえ、秋を感じられる風景を見えていなかった。
それを教えてくれたフルジュさんに心から感謝しつつ、景色に見惚れて言葉が漏れる。
「きれい……」
「いや、そうじゃなく……」
「え?」
ふとして出た言葉に反するように、頭を振るフルジュさんにキョトンとして横を見る。
否定している彼は私の方を向いていて、目元を細めるフルジュさんの視線に、なぜか恐怖心が襲った。 ――その意識は彼の言葉で確信した。
「何も知らないような勇者殿の肉体美……しかも全てではないにしろ健康そうな肌つやと質量が目の前で展開されているとは……とてもいい眺めなのである……」
「!?」
――ぞぞぞぞぞぞっ!
どこか熱が籠もった言葉と恍惚ているような視線を浴びて、背筋が怯えたように粟立った。
私はその二つの干渉に、とっさにフルジュさんから胸とお腹辺りを隠すように自分自身を抱き着いた。
「そ……それって、いったいどんな……意味が……。!」
「勇者様、知らなくてもいいことがあります。変態の言葉などお気になさらず」
――いやいや! 気になる! とても気になる! なんか意味深な意味合いに捉えられるんですけど!?
恐怖心で声が震えてしまい、アワアワと混乱のあまり問いかけてしまったけれど、最後まで口が動くことが出来なかった。
その理由として、セリシアさんが私を引き寄せ、口元を覆われてしまったからだ。その拍子に頭部に柔らかな胸がポヨンと触れる感触があった。
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