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「お二人とも、お離れになってください! まだ、次の村までは結構な距離があるのです。宿舎を見つけて明日に備えて、早めに寝るのが一番です!」
「えーー」
「……(むぅ)」
「ふてくされても、無駄ですわよ。森を早く抜けないと、夜になってモンスターに教われでもしたら大変です! ただでさえ、勇者様のお命を狙う不届きものが居るというのにーー!?」
腰に手を当てて小さな敵対心のする言い方で叱るシスターの言葉を遮るかのように、草木をかき分けるような音が近づいてくるのに気づき、彼女は物音のする方へ勢いよく振り向いた。
「なにものですか!?」
声を荒げるシスターに反応した音の主は正体を現した。
「うしっし…。こんなへんぴな森の中で、勇者ご一行と出会うとは…。運がいいっし…」
愉快そうに笑って現れたのは角の生えた二足歩行の牛だった。
「え!? 牛!?」
現れた牛を見て、私は二足歩行していることと喋っていることに驚きの声を上げていると、シスターな女性は淡々と、当たり前じゃないですかという顔をして戦闘態勢に入っていた。
「なにを驚いてるの? 彼らは闘牛氏(とうぎゅうし)で、各地にいる闘牛氏の一派ですよ」
「あ、ごめんなさい……」
「謝るものでもないですので、お気になさらず。ですので、勇者様……戦闘準備のほど、よろしくお願いします」
「は……はい!」
シスターの一言で、不慣れな鎧に帯刀していた長ものを両手で持って、戦闘態勢を取ることになってしまった。
「勇者様との時間を奪う不届きもの! このソフィー、まことに許しませんことよ!」
「!!(コクコクッ)」
私を囲うように両隣りに来たソフィーさんとアンディアちゃんは足元に魔方陣を展開して構え、フルジュさんは大きな斧を片手に持って目の前に出る。
「勇者よ。オレはお前を信頼している。早くこいつらを倒して男同士の話をしよう!」
「では……みなさん、行きましょう!!」
シスターさんの号令でフルジュさんは闘牛氏に斧を振るい向かい、アンディアちゃんは小さい声で詠唱を唱えると、持っていた人形が動き始めた。
ソフィーさんはナイフをどこからともなく数本出して、相手に向かって投げた。
私はというと、長ものを手にしているだけでも体力が削られているような感覚に戸惑い、三人の後に続くことができなかった。
――そして、私が参戦する間もなく、戦闘は終了してしまったのだった……。
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