その四

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 六月に入り、気温がどんどん上昇していく。部活に励む高野君も汗だくだくで辛そうだ。でも日焼けした肌に流れる汗を半袖のシャツで拭う姿は痺れるほどカッコイイ。  休憩中に水分補給するためのイオン飲料を作っていると、背後から女子の話し声が聞こえてきた。 「一年のヤバい子ってあの子? 青のゼッケンの子?」  ピンときた。間違いない、高野君だ。 「そうそう。白が二年で、青が一年ね。ほら、いま袖で汗拭った子」  パッと顔を上げる。ヤッパリだ。 「あー。たしかによき~。フォトジェニックじゃね!? ヤバい」  そろりと振り返ると、二年生らしき女子二人が木陰で練習を眺めている。 「よきよき。二年より上手いんじゃない?」 「だよねー。ヤバい……ヤバすぎでわ?」  興奮した様子でヒソヒソ話す声に全力で耳を傾ける。 「え~。超いいじゃん。……ヤバい。どうしよ。付き合いたい!」  その言葉にビクッ! と背筋が伸びた。 「またぁ。あんた早いよ。ツヨポンと別れたばっかのくせに」 「それな。んでもツヨシより背も高いよね? 高野君だっけ? 下の名前は?」 「なんだったかなぁ。また聞いてみるよ」  つ、つき……ナイナイナイナイッ!  ブンブン首を振ってると、転がってきたボールを拾うためか石井君が近づいてきた。 「何やってんの?」 「べつに!」 「え!?」  思わず声を荒げると石井君がギョッとした顔になる。  あ、しまった。つい……。 「や、な、なんでもないよ」  水筒の中をザブザブと濯いで誤魔化し、その場を離れる。  どうやらあの二年の女子はサッカー部の二年と繋がりがあるみたいだ。このまま黙ってなんていられない。あの口調だと、そうとうな肉食女子に違いない。身長とか外見だけで高野君を見るだなんて許せない。  なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ……。
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