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その心の揺れ方は、ちょうど子が赤ちゃんだった時、理由なく泣き出したり、なかなか母乳を吸わなくなったりした時に、頭がパニックになるほどの恐怖を感じた、あの体験を思い出させた。
(みみちゃんは人形……)
台所で調理をしている時に、居間から「ごとん」という痛々しい音が聞こえるたびに、すっとんで行くようになった。
子がみみちゃんを落っことしていたり、みみちゃんをさかさまにしていたりしたら、すうっと血の気が引いた。
「ダメだよ、みみちゃんが可哀そう……」
いいこいいこしてあげてね、みみちゃん泣いてるよ。
すると子は、じっとわたしを見上げて、それからみみちゃんを抱き直して、頭をわしゃわしゃ撫でるのだった。
子が保育園に行って、時間ができた時、わたしはみみちゃんの服を買いに行った。
コーナーにはみみちゃん人形がずらっと並んでいて、どれも同じ顔をしていたけれど、なぜかわたしは、そこにあるみみちゃんには興味が全くわかなかったのである。
頭の中は、ひたすら、うちの居間のクッションの上に、バスタオルを布団代わりにしてねんねしているみみちゃんに着せる服はどれがいいだろうかということだけが回っていた。
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