みみちゃん

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 ある日、わたしは台所で夕食を作っていた。  フライパンで炒め物をしていた時、さすような鋭い感覚が頭を貫くような感じで、声が聞こえたような気がした。  いや、声にならない声と言うべきか。  脳内でそれを翻訳し、日本語に置き換えると「ママ、たすけてママ」といったところか。  ともあれわたしはフライパンを放り出すようにコンロに戻すと、本能にせかされるようにして居間に飛び込んだ。  ……子が、みみちゃんの服を脱がせ、髪の毛を握って逆さにしていたのだった。  叫びを――わたしは、ほとんど自覚がなかった――あげながらわたしは駆けこむと、子の手からみみちゃんを奪い取り、こらっと子を叱りつけたのだった。  服が乱れた格好で、髪の毛をぼうぼうにして、みみちゃんは目をぱっちり開いている。  腕の中に抱かれたみみちゃんは、安全なところに逃げ込めたように安心しているように見えた。  ふっと、わたしは思った。  (みみちゃんは、子に似ているなあ……面影というか、なんというか)  「だめっ、そんなことしたら、みみちゃん痛い痛いだよっ」  わたしがみみちゃんを庇って叱ると、子はきょとんと立ち尽くしていた。     
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