序章

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序章

 厚い雲に覆われた人気のない深夜の公園。 バケツをひっくり返したように地面を叩きつける雨。 骨が折れた傘。 無造作に投げ捨てられたカバン。 画面が割れたスマートフォン。血のついたナイフ。 血に染まる石のタイル。 生気を失った瞳に血の気を失った皮膚。 ふと気がついた時には、冷たくなった私の?を見下ろしていた。 見ようによっては精巧に造られたに人形を使った退廃的なオブジェや人間の醜さを描いた作品とも見て取れる程の光景だ。どれもこれも死んだ私というモデルの質がいいからだろう。 血の気を失った肌は蝋人形や石膏の彫像に、辺りを染める鮮血は色鮮やかな赤い絵具に。 服装があまり気合いの入っていないのが玉に瑕。 死ぬ時くらいは一張羅が良かったのに…… とはいえこんな美しい作品を調べた挙句、司法解剖のためにどこかへ運ばれていくには勿体ないとは思わない?  さて、どうして私がここで自分の骸を見下ろしているのか、なぜ私の身体がここに寝転がっているのかが全くわからない。 腹部の刺創と地面に落ちているナイフを見るに、どうやら誰かに刺されたんだろう。 正面から刺されている所を見るに、私の知人か友人が犯人の可能性が高い。 が、残念ながら私には感情的に行動するような短絡的な人間は、交友関係から徹底的に廃してるため、友人という線はない。 なら、いかなる人間に対しても社交的に振舞っている私の習性を逆手にとられて刺された可能性が一番高い。 だとすれば一体どこのどいつが私を呼び出して刺した……? これ以上私の骸を眺めていても埒が明かないし、私の一日を振り返るために一度家に帰ることにした。  時刻は深夜の1時を過ぎたところ。 土砂降りの中、私が死んだ公園から気味の悪いくらい人の気配がない繁華街を通り抜けて自宅マンションまでたどり着いた。 実体のない幽霊の私には雨には濡れず、影もなく、壁をすり抜けることが出来る私には物理的な関係ない。 重力なんかにも縛られず自由に宙にも浮くことが出来るし、距離や空間にも縛られず自由に至る所へ移動することが出来る。 ポルターガイスト現象やラップ音が本当に霊魂が起こしていると仮定するなら物質に干渉することも出来る。 さて、ひとまずこの身体で部屋へ戻ってみようか。
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