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「生きることにした。これでお前らも、おまんまの食い上げだな。ざまあみろ! 死神! 俺は、もう誰の食いものにもされねえ! 生きてやる!」
「君が死んだくらいじゃ、会社は潰れないし、悪い奴らも首をくくったりしない」
「んなこと、わかってたさ。本当は! ……お前らも、また別の人間に電話をかけるだけだろ。死に損ないにさ」
「ああ」
「サリー先輩、いいんですか? 彼を助けたんですか?」
わたしは嬉しかった。死神は人を助けられるんだと感動した。
しかしサリー先輩は首を横に振る。胸がドクリと脈打つ。
「いや……もう時間だ、五秒前」
「え?」
カウントは足の指から手に移って、
「ダメ犬、空は見えたか?」
ゆっくりとパーからグーへ。
「もう誰の言うことも聞」
瞬間、今までの騒音とは比べものにならない、大きな大きな音がわたしの耳をつんざいた。わたしは思う前に目を閉じた。恐い……恐いよ……。
ノイズ、ノイズ、ノイズ。
それがプツンと切れた。後には、ツーツーという機械の音と、耳鳴りが残った。
サリー先輩は体にたまったなにか、それこそ魂まで吐き出してしまいそうに長い息を吐いた。それから器用に受話器を回して、母艦の黒電話に戻す。その所作は曲芸じみていた。ガチャン。切断音も消える。
わたしは呆けてしまって、気がついたときにはサリー先輩の体にしがみついていた。
「まあ、ざっとこんな感じ、死神のお仕事は。わかった?」
なにもわからなかった。なにが起こったのか、男の人は本当に死んでしまったのだろうか。電話をしたこと、その内容になにか意味があっただろうか。わからないことだらけだった。
「みんな最初はそんなもんだ」
震えが止まるまで、わたしを撫でてくれる手があった。
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