タナちゃんとサリー先輩 Ⅱ

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「そろそろ、ティータイムにしようか」  サリー先輩は指をぱちんと鳴らした。小さな音が時間を区切る。 「続きはテラスでね」  わたしが体から離れると、サリー先輩はすくっと立ち上がる。足で靴をさぐって、つま先を鳴らして履く。次にデスクに目をやって、そこに置いてあった薄い紙束を取った。白い机の上に白い紙束、見落としていた。黒電話の横にずっと置かれていたらしい。  サリー先輩はわたしを横切って言った。 「おいで」  引き戸を開けて外に出ていってしまう。わたしは後を追った。  どこまでも白い廊下が続く。まるで色を忘れさせようとするみたいだ。右手側にずらりと戸が並ぶ。それらも白く、注意して見なければ、どこまでも壁が続いているだけに見える。振り返っても、もうさっきまでいた部屋がどこかわからない。一人だったら、永遠に迷ってしまいそうだ。わたしはサリー先輩の背中を追った。  わたしがこの世界に来てから、日はすごく浅い。一回眠ったのだから、一日は経ったのだろうか。この世界の時間感覚はひどく曖昧で、時計はどこにもない。だから、昨日と表現して本当に正確なのかはわからない。だけど、そうとしか表現のしようがない。  昨日、わたしはこの世界にやってきて、それ以前の記憶はぜんぜんなかった。わたしは唐突にここにいて、死神と呼ばれ、自称しなければならない存在になっていた。それまで、なにをしていたのか、誰なのか、全てどこかに置いてきてしまった。ここじゃない世界が存在していて、わたしは本来そっち側にいたという、そんな感覚だけがはっきりしている。  この世界で、最初から着ていた白い服。その胸のところには白い糸でタナカと縫いつけられていた。それを見つけたときは嬉しかった。わたしの名前はタナカ、それは間違いないような気がする。
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