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カチッという小さなリップノイズの後、
「ようダメ犬、死ぬ準備は順調かい?」
サリー先輩は、はっきり、はきはき、そう言い放った。
堂々としすぎていて、はじめそのおかしさに気づけないほどだった。
認識と同時に背中に冷や汗がどっと吹き出す。
「だめですよ!」
わたしは叫んでいた。
サリー先輩は無視して続ける。
「ダメ犬~? 死んだのか~?」
「切られちゃいますって!」
サリー先輩は、首を傾げて、ほっぺと肩との間に受話器を挟む。
ぴったりフィットしていた。
「死んだなら、死にましたって、報告しろよな~」
言いながら、机にあったペンをさっと取る。
サリー先輩は、わたしの手を掴んだ。驚いて、「キャ」と悲鳴を上げてしまう。手のひらがペン先でツツと撫でられる。痛、くすぐったい。この人、まずい人なんじゃないか?
この職場が甘くないことを思い出す。もし電話が切られたら、矛先はわたしに向くんじゃないか。お願いだから、とわたしは懇願する。どうか、切らないで、死にそうな男の人! その誠意は、声にまで、体にまでも出ていた。腰を九十度曲げる。
「どうか、切らないでください!」
「だーめいぬっ! はい! だーめいぬっ! はい!」
わたしの懇願は無情にもダメ犬コールにかき消される。
諦めかけたときだった。
「誰だ、てめえ」
怒気をはらんだ男の声が鼓膜を揺らした。
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