タナちゃんとサリー先輩 Ⅰ

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 サリー先輩は片目をつぶった。長いまつげがふっと揺れる。美人だと思ってしまう。  掴まれていた手が解放される。温かさが褪せて、急に寂しくなる。手のひらにペンで書かれた白い文字に目を凝らす。『これでいいのだ』とあった。これでいいのだ……?  サリー先輩は、「な?」っと、ドヤ顔でわたしを見る。 「いや、いいくないですよね!」  どうして、そんな調子なのか、ぜんぜんわからないが、とりあえず、ほっとしてみる。  しかし、騙されちゃいけない。どんなに魅力的でも、いい人じゃない。死のうとしている人を、ばかにして。そんな人は最低だ。 「ウチ、サリーちゃん、死神よ」 「死神? バカにしやがって」 「本当のことを言っただけだけど」  男は鼻で笑う。 「ハッ。お前らが誰なのか、見当はつくよ」 「お前ら?」  お前『ら』とは誰のことだろう。わたしは狭い部屋のなかを見回した。ぐるりと回って、サリー先輩と視線が交じる。 「タナちゃんの声も全部筒抜けなんだなぁ」 「ええっ! そんな、聞いてないですよ」 「言ってなかったっけ」 「聞いてないです!」  わたしは口をギュッと結んだ。 「ここから、お口チャックしてます」 「喋ってんじゃん」  わたしは首を横に振る。 「もう、タナちゃんも参加ってことだからさ」 「そんな、無理ですよ」 「よく言うよ~」  バン!っと破裂音が反響する。 「えっ!」 「死んだ!」  サリー先輩の言葉に、男が返す。 「うるせえ、まだだ」 「じゃあ、なに?」 「そっちだけで話してんじゃねぇ」 「なんだ、寂しかったのね」  わたしは「プフ」と笑ってしまった。  それに反応して、また破裂音。 「風呂板が割れちまった!」 「ものに当たるなよ」 「かわいそうです」 「うるせえ。そんな口叩けるのも今のうちだ」 「ダメ犬、元気出てきたな」 「お前に罵られたって、痛くも痒くもないんだ」 「なら、せいぜい気にしなきゃいい」 「そうするよ!」  男は憎たらしさをたっぷり込める。 「だけどお前らは、俺を気にせずにはいられないだろうがな」
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