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サリー先輩は片目をつぶった。長いまつげがふっと揺れる。美人だと思ってしまう。
掴まれていた手が解放される。温かさが褪せて、急に寂しくなる。手のひらにペンで書かれた白い文字に目を凝らす。『これでいいのだ』とあった。これでいいのだ……?
サリー先輩は、「な?」っと、ドヤ顔でわたしを見る。
「いや、いいくないですよね!」
どうして、そんな調子なのか、ぜんぜんわからないが、とりあえず、ほっとしてみる。
しかし、騙されちゃいけない。どんなに魅力的でも、いい人じゃない。死のうとしている人を、ばかにして。そんな人は最低だ。
「ウチ、サリーちゃん、死神よ」
「死神? バカにしやがって」
「本当のことを言っただけだけど」
男は鼻で笑う。
「ハッ。お前らが誰なのか、見当はつくよ」
「お前ら?」
お前『ら』とは誰のことだろう。わたしは狭い部屋のなかを見回した。ぐるりと回って、サリー先輩と視線が交じる。
「タナちゃんの声も全部筒抜けなんだなぁ」
「ええっ! そんな、聞いてないですよ」
「言ってなかったっけ」
「聞いてないです!」
わたしは口をギュッと結んだ。
「ここから、お口チャックしてます」
「喋ってんじゃん」
わたしは首を横に振る。
「もう、タナちゃんも参加ってことだからさ」
「そんな、無理ですよ」
「よく言うよ~」
バン!っと破裂音が反響する。
「えっ!」
「死んだ!」
サリー先輩の言葉に、男が返す。
「うるせえ、まだだ」
「じゃあ、なに?」
「そっちだけで話してんじゃねぇ」
「なんだ、寂しかったのね」
わたしは「プフ」と笑ってしまった。
それに反応して、また破裂音。
「風呂板が割れちまった!」
「ものに当たるなよ」
「かわいそうです」
「うるせえ。そんな口叩けるのも今のうちだ」
「ダメ犬、元気出てきたな」
「お前に罵られたって、痛くも痒くもないんだ」
「なら、せいぜい気にしなきゃいい」
「そうするよ!」
男は憎たらしさをたっぷり込める。
「だけどお前らは、俺を気にせずにはいられないだろうがな」
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