タナちゃんとサリー先輩 Ⅰ

5/12
前へ
/24ページ
次へ
「なにが?」 「気づいてねえのか? 本当に間抜けな奴らだな」 「これから自殺しようって君に言われたくないな」 「え! 自殺? や、やめて。考え直してください」 「ウチらは死神なんだぜ?」  サリー先輩は静かに言う。その言葉の重苦しさに閉口する。  わたしは死神になったらしい。実感はぜんぜんないのだが。 「自殺しようとしてるって、よくわかったな」  シュッと擦りつける音。わたしはマッチを想起した。  火薬の匂いさえも感じる。共感覚というやつだろう。 「それに電話してきたってことは、やっぱ気づいたんだろ」 「君がなにを言ってるか、さっぱりだよ」 「とぼけちゃって……」  微かにパチパチと弾ける音。 「今、練炭に火を点けた」 「知ってる。あと二十分で君が死ぬことも知ってる。死神だから」  その言葉に、わたしは違和感を覚えた。どうしてそう感じたのか、自分の頭のなかを探る。答えはすぐに出た。二十分という時間だ。そんな短い時間で死ぬには彼は元気すぎるのだ。 「ああ、俺は死ぬ。でも一人じゃ死なねえ。お前らも道連れだ」  電話越しであるのに、その言葉には迫力があった。  わたしは怖気づいてしまう。 「許してください!」 「もう遅い」  サリー先輩は態度を崩さず、不敵だった。 「ねえ、死神を殺せるもんなら、殺してみてよ」 「だめっ! お願いします。許してください」 「遅いんだよ。お前ら、もう死んでんだよ」 「わたし、もう死んでる !?」 「生きてるけど?」 「どっち !?」  男はずっと勿体つけていたが、とうとう言った。それも渋々という感じでだ。 「データを盗んだんだ」 「……データ?」 「会社の顧客データだ」 「ああ」 「わかったか?」 「まーね」
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加