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捻くれた喜びを深めるように男は語る。
「全部、ぶちまけてやった。これでお前らも終わりだ。今さら、電話なんてかけてきやがって、もう遅いんだよ。ネットですぐに広まる。あの野郎も会社もお前らも……みんな、みんな、お終いだ」
「わかった」
「わかったなら、お前らも首をくくる準備をしておくことだな」
男はそこまで言い切って咳き込んだ。練炭のケムリを吸い込んだのだろう。きっと苦い味がする。いや、本当にそうか? 全部、男の演技だったりはしないだろうか?
「首なんかくくらない。君が、勘違いしていることがわかったんだよ」
「フン、どうせ、いま必死に検索でもしてるとこだろ」
「会社ってなんのことですか? 首をくくるって?」
この世界も、会社と呼べないこともない。仕事と報酬がある。
「だから違うって! ウチの話聞いてた? タナちゃん?」
「タナちゃんって、タナカか?」
「ひゃい!」
本名を名指しされて、わたしは飛び上がった。
「お前、そんな声だったのか。かわいい声だな」
「え、えぇー」
「なんだよ。嫌そうな反応しやがって」
「ウチの子にセクハラしないでくれる? ダメ犬くん」
「ハッ! そんなまともな会社じゃなかったろ!」
サリー先輩は受話器を左手から、右手へ持ち替えた。当てる耳も左耳から、右耳に切り替わる。リズム良く、一言も聞き逃さないタイミングだった。
「そろそろウザくなってきたから、はっきりさせたいんだけど」
「なんだよ」
「ウチらは、君の会社とはなんの関係もないわけ」
「嘘つけ、じゃなかったら、なんだって言うんだよ」
黒電話の機能で、二人の声も音も、両耳に聞こえている。だとしたら、受話器を放り出しても聞こえるはずだ、とかわたしは考えていた。
「だから死神っつってんじゃん」
「だからふざけんなって……」
「まあ、いきなりで認めらんないやつのほうが多いけど」
「まさか……」
「毎回、説明かったるいのよ」
しばし沈黙があった。
「どうして俺は電話に出たんだ……なんで風呂場にスマホを持ってきた……というか、SIMカード引っこ抜いてあったよな……それでどうしてつながる……」
「気がついた?」
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