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男は「そうだ、そうだ」としばらく独りごちる。
次の言葉には、それまであった怒りが消えていた。
「ああ、確かに、おかしいもんな」
「ね」
「お前みたいな声のやついねえし、よく考えたら、タナカはオッサンだったし」
わたしは今日、二度目のショックを受けた。
「あの、わたし、男みたいな声ですか?」
「かわいい声だって言っただろ」
「嬉しくないです!」
「おい!」
男の笑いは乾いていた。
「ハハハ……死神ね。じゃあ、お迎えに来てくれるわけだ」
「ふーん。あんたの死神はそういうタイプなんだ」
「ああ、大鎌持って黒いローブを被った白い骨の化物だ」
「それ、恐くない?」
「恐えよ」
「そんなのにお迎えに来てほしいの?」
「やだよ。お前ら、そんな姿なのか?」
「タナちゃんは美少女だけど」
「なら歓迎だ」
「えぇー」
わたしは質問しないわけにはいかなかった。わからないことだらけだ。
「もしかして、わたしたち、行くんですか?」
「もちろん、行かない」
「良かった。びっくりしました」
「じゃあ、この電話はなんだ。アポイントじゃねーの」
「残念、ウチらは電話をかけるだけ」
「なんだそれ、それになんの意味があんだよ」
そこも聞いておきたいところだった。この仕事の意味はなんなのか。耳を澄ませてから、このパターンはろくな答えが聞けないパターンだと気づく。さっきも優しい言葉を期待したのに、出てきたのはダメ犬という暴言だった。
サリー先輩は高らかに答える。
「知らない」
予知していたのに、わたしはずっこけた。
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