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「逆に知ってたら、教えてくれない?」
「知るわけねえだろ。いい加減にしろ」
「じゃあさ、神様について、なにか知らない?」
「神? それなら一つだけ、教えてやるよ」
男は咳き込んだ。さっきよりも切羽詰った感じ。唸りもした。
痛々しく、血が出そうだ。苦しみは演技ではないとわかる。
「……神なんか存在しない」
「ああ、あんたはそのタイプなのね」
「死神のタイプとか、神のタイプとか、どうでもいい」
「一応、聞くことになってるんだ」
「俺もデータの一つってわけか」
「そうなるね」
サリー先輩は指をぱちんと鳴らした。
「あ、そうそう」
「なんだ?」
「もう一つ聞いておきたいことがあったんだよ」
「答える義理はねーな」
「いーじゃん、最後なんだし」
「なら、先に一つ答えろ」
「いいよ」
「お前らの得はなんだ? この電話で受けられる報酬だ」
「あー」
「なんか得があるから、こんなことをしているはずだ」
「それね」
「冥土の土産だ。聞かせろ」
サリー先輩は受話器を口から遠ざけた。天に長い息を吐く。くちびるをぶるぶる震わせた。品のない仕草だけど、わたしはドキドキしてしまう。惚れっぽいのかもしれない。いや、他に頼れる人がいないから無理もないのだ。そう自分に言い聞かせた。
「この話はもう百万回はしてるからなあ」
「嘘つけ」
「死神の寿命なめないでよね。だから、冥土でもありふれた話かもよ」
「じゃあ、いいよ、どうでも、話さなくて」
「あ、そう?」
「俺も答えないだけだ」
わたしは口を挟んでしまう。
「わたし、知りたいです」
「ほら、タナカも知りたいんだと」
サリー先輩はわたしを向く。くちびるを突き出して見せる。
「本当に知りたい?」
わたしは首肯した。
「だよね。愚問だった」
サリー先輩はくうに向き直る。
「じゃあ、話すけど、絶対、笑わないこと、黙って聞くこと」
「ああ、約束する」
「タナちゃんもだよ」
「わかりました」
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