自由落下

　俺はこのまま地面に打ち付けられ、クチャって潰れて死ぬんだろうな。

　身体が引力に引かれて地面へと落下しているはずなのに、世界全体がスローモーションになっていて、カクカクとコマ送りのように動いている。これが死ぬ前には起こるという、時間の長さが通常の数倍になるとかいう思考の洪水とやらか。

　時間の流れが長くなろうとも、俺の身体は地面へと向かって落ちている。

　その事実だけは変わらないな。

　命綱とか付けないで素手で、三十一階建てのビルの三十階のところまで登ったはいいけど、そこから滑落したようなものだから助かりはしないだろう。

　ちょっと前に六十二階建てのビルから落下した中国人のユーチューバーがいたが、この俺がそれと同じ結果になるとは思わなかったな。

　ルーファーとして動画配信をすれば、儲かると思ったんだけどな……。

　ろくに稼げてないから、安っぽい命になっちまったな……。

　地面が迫ってきている。

　もう死ぬな、俺は……。

　……あれ？

　なんで墜落しているんだっけか？

　ああ、そっか。

　手を伸ばして掴んだコンクリの外壁がポロッて崩れたせいだっけか。

　なんだよ！　欠陥工事が原因かよ！

　ちゃんと施工しておけよ……。

　掴んだだけでコンクリがもげるとか最悪だな。

　ああ、地面が目と鼻の先だ……。

　情けない死に方するな、俺は……。