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近道
ボクの家は山間部にあって、街に出るには山を下りる必要があったりする。
通っている中学校は街中にあり、家から徒歩で三十分くらいかかる。
だけど、獣道みたいな場所を通れば、徒歩二十分くらいに短縮できるので、ボクはその近道を使ってほぼ毎日通学している。
数日前くらいからだろうか。
ボクが通っている獣道の近くで寝そべっている、あの人がいるようになったのは。
最初は獣道を通っているボクをあの人が恨みがましく見ていたので、目を合わせないようにそそくさとあの人の前を通り過ぎた。
次の日は、あの人が死んだ魚のような目をして、ボクを見つめていたので、今度も目を合わせないように早足でやりすごした。
次の次の日は、あの人が光のない瞳でボクの事を見ていたので、逃げるようにしてあの人の前を通った。
その次の次の次の日には、あの人の身体が昨日よりも小さくなったように見えたけど、無視して通り過ぎた。
その次の次の次の次の日には、あの人はさらに小さくなっていて、もう目を向けてはいけないようになっていた。
その次の次の次の次の次の日には、あの人がさらに痩せこけてしまっていて、もう人ではなくなっていたので、ボクはもう見なかったことにした。
その次の次の次の次の次の日には、あの人の身体がなくなっていたので、ボクはもう何も知らないふりをしてやりすごした。
その次の次の次の次の次の次の日には、いつもの近道を使わないで、普通の道を歩いて登校した。
昨日の夕方、一週間くらい前から行方不明になっていたアル中の父親が白骨化に近い形の死体が近所で発見されたと聞いたので、普通の道を使うしかないと思ったからだ。
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