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勿論、こんな思考に意味なんて無い。しかし、これは性分であり避けられない学究的本能というものだ。少なくとも、自分が規定するところの「学者」という奴は、興味を持つ分野での疑問を放置しない。
自分は、その意味で少し好奇心が強いきらいがあるらしい。でなければこんな、殺風景で官僚くさい箱になんて閉じ込められていない筈だ。
「当査問会を侮辱しているのか? アルベルト=ラプラス」
シルエットの一人が問い掛ける。いつの間にやら部屋の中は静かになっていて、ぺらぺらと説明書みたいに台詞を吐いていた老女史も含め全員が、アルの行動を見つめていた。
どうやらためす眇めつして、焦点の合わない原因を探ろうとした事が癇に障ったらしい。アルはいやいやと、首を横に振って否定し、自分を取り囲むシルエットを見回す。
「侮辱だなんてとんでもない。こんなしがない一研究職員に、これほどまで大仰な舞台と時間を用意してもらえたのですから、敬服こそすれ侮辱などあり得ないですよ」
アルはそう、飄然と答えてヘラヘラと笑う。査問会は全体が少しざわついて、あれやこれやと潜めた声が飛び交った。そのどれもが、アルの耳に入っては来ない。必要な事柄のみをソフトウェアが選択して、不必要な音声をシャットアウトしているのだろう。
過度な防諜工作も、この査問会の性質を表す良い材料だ。
「下手なエスプリは要らないのだ、犯罪人」
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