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「しかも“異界送り”の発動に耐えきれなくて死ぬ可能性が2割、穴に上手く入らなくて真っ二つになるのが3割、入っても空間の裂け目にズタボロにされるのが3割で、その他の不具合に殺されるのがプラス1割……つまり、全体の成功率が10パーセント無いんだよ? 詐欺くさくない?」
返答は無い。どころか生物的な反応がなにも無い。生き物の気配を感じないのだから当たり前にしても。
いや、生き物の痕跡はあるのだ。そこに確かに生命があった、という足跡が。例えばそれは匂いであり、咀嚼痕や糞。化石なんかも立派な痕跡だ。
アルはいま、目の前にある痕跡に語りかけているのだ。声の反響と構造から、それほど大きくない洞窟の中で。
「で、おれとアンタはその10パーセントの死線を生き残った訳だ。この洞窟から出られる事は無かったみたいだけど」
目の前の、もがき苦しむ姿勢で白骨化した死体と、アルは対話する。半身が洞窟の壁にめり込んでいて、右手が虚空を泳いだまま、石灰化して固まっている。アルは憐憫に似た表情で、その白骨をまじまじと見遣る。
「まぁ、ね。空間と次元とを引き裂いてるわけだから、転移する設定ミスったら壁にめり込んだり、ゲル状生物になったりしちゃうよね~~悪いけど、そいつはおれの所為じゃないから、そのまま化石になっておくれよ」
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