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アルはそう告げて、立ち上がる。白い拘束衣は着けられたまま送り出されたので、未だに両手の自由が利かない。両足も随分ぴったりと、さっきまで地面に縫い付けられていたから具合が悪い。
とはいえ、これでは餓死を待っているのと同じだ。アルは意を決してーーというほどの覚悟でもないけれど、とりあえず今居る洞窟から出ることにした。ごつごつとした岩の道。光は薄く、ぼんやりとしか視界が効かないけど、幸い道は一本しか無い。
暗がりを過ぎ、光が大勢を占め始めた。アルの視界が徐々に開けて。
「ーーへぇ」
感心したように、アルは嘆息した。目の前に広がる光景。
それは想像よりも美しく、そしてなにもなかった。
「岩、岩、岩。でもって一面の霧。マジで何も無いが……あぁ」
良いな。アルは静かに微笑んでいる。なんということだ、と。
なんという未知なのだ、と。アルは自身の網膜に、採取した環境値を表示した。
そのすべては、“計測不能”とだけ文字を踊らせている。
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