第一章

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あらすじ  荒れ果てた山肌、深い霧により視界の大半が塞がれる空間。“終わりの山脈”と呼ばれるその大地に、閃光が走り、激しい戦いを繰り広げる影達があった。その殆んどはつるつるとした素材によって組み上げられた人形〈オートマトン〉。複数あるそれらは互いに光や衝撃波を発射し、二つの人影を追い立てていた。  一つは、青い長髪をサイドテールに結わえ、得物の槍と魔法を駆使しながら飛び回る女性、「ルルカ=ガブリエル」。  そしてもう一つは、白銀の強化外骨格を纏い、絶大な一撃を拳に乗せて放つ男、「アルベルト=ラプラス」。  辺りの霧すら吹き飛ばし、荒れ地を更地に変える規模の攻撃を繰り返しながら、二人は対峙した。不敵な言葉を交わしながら、最後には互いの得物を突き付け合い激闘を開始する。 ーー「お前は誰だ」と、互いに問い掛けながら。  アルベルト=ラプラスは戦争犯罪人であった。“最悪の帝国”とよばれる化け物国家に生を受け、どうしようもない敗戦の状況のツケを払わせられようとしていた。即決裁判であり、結果の定められた査問会は、アルベルトの科学的な才能とその存在の異質さを理由に、その身体を別の世界に送る“異界送り”を敢行する。次元と空間を断絶し、どことも言えないまったくの異界へ送り出されたアルベルトは、しかし絶望をしない。とある山奥、洞穴のなかに転送されたアルベルトは、その入り口に佇み、自らの目の前に広がる未知の世界に歓喜した。  ルルカ=ガブリエルは退屈していた。それは十代特有の倦怠感から来るものではなく、ただ単純に、その日はひどく退屈な日であっただけ。〈聖十字槍魔法学園〉特待生としての自由を謳歌し、フリーランスとして好きな依頼を好きな分だけこなして過ごす日々を愛していた。しかし、特待生クラスを受け持つ教師「ヘレナ=シーカー」から告げられる依頼に、ルルカの倦怠感は吹き飛ばされる。「終わりの山脈に人影を見た」と。人どころか、殆んどの生き物が暮らすことのできない極限の領域で見られる怪現象に、ルルカは心踊りその依頼を引き受けた。   ここに、二人の運命は交錯する。    
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