第一章

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 「おれの世界と組成が違う……霧、いや大気どころの話じゃない、“存在の根本から”定理が違う……! なんてこった、なんという驚異だよ。こいつは」  アルは喜びにうち震えるよう、肩を揺らして笑ってしまう。周囲に人影は見えず、なんの気配も無いのを良いことに。  それはセンサー類によって導いた解ではなく、単純に己の勘だった。神経同調接続、高次電子リンク、そんな世界から飛ばされてきたのだから生体感知器くらい持ち合わせている。けれど、そんなものに頼りたくはない。  今はただ、生き物としての所感が欲しい。ただ息を吸い、ただ息を吐く、そんな生理現象がこれほど楽しいのだから。  一息する度、体内に入り込んだ元素の解析が指数的な速度で進む。網膜に張り出されるエラー表示は、消えては増えを繰り返す。  通常の呼吸と何が違うのか、代謝に対する影響は何なのか。アルは必死に感覚しようとする。その作業が楽しかった。  そしてその作業の最中に、アルは自分の背後に佇む気配を察知した。  「……あぁ、まったく。おれは何と無知であったか。イカれだ狂人だと呼ばれてきたし、人よりも多くのものは知っていたつもりだが……素直に言おう」
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