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アルは振り向き、その気配と対峙する。曲がりなりにも従軍し、それなりに生死の境を潜ってきたお陰で、自分の危機には敏感であったつもりだ。
だから、それが危険であるということは理解できた。しかも生物相手に、危機察知の本能が働くなんて。戦闘機械でも、機動兵器でもなく、只の生物に。
理解できたが、それがどうした。ひょっとしたら死ぬ可能性もあるのだが、知ったことではない。
ーー目の前の、紫色をした巨大な肉の塊。球形で、無数の触手を蠕動させる軟体生物。
触手の先には、人間みたいな五指の手のひらが蠢いていた。そして肉の真ん中に、巨大な獣眼の眼球がある。しっかりと、眼球はこちらを見つめている。
「ーーチビりそうなほど狂喜してるぜ。リトルグレイ」
アルは歓喜の表情を浮かべた。一つ目の肉塊はそれを挑戦と取ったらしく、ぴきぴきと身体中に筋を走らせている。
筋肉の硬直、そして解放。反動と反発を利用した高機動戦術。それくらいは分かる。
ーーだが、それだけじゃないだろう?
「もっと楽しませてくれ……この未知との遭遇をッ!」
アルが吠えた瞬間、肉塊は弾丸の如く飛び出した。
そして同時に、アルの拘束衣が地面に落ちる。
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