第7話 独りじゃないから。

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第7話 独りじゃないから。

「言語発達障害……ですか?」 「はい。ただ、私は言語発達の知識が専門家よりも詳しい訳ではないので、現段階では疑いがあるとしかお伝えすることができません」 「そう……ですか……」 「今、調べてみたところ、午後に白川小児医院に臨床発達心理士の方がお見えになるようです」 「はい」 「もし、今日行かれるようでしたら、私から病院の方へ連絡を入れておきますが、どうなさいますか?」 「はい……。では、よろしくお願いします」 思ってもみなかった話に呆然としながらも、無意識のうちに頭を下げる匠の様子を見兼ねたのか、医師が言葉を続ける。 「お父さん。まだそうと決まったわけではありません。医師である私が不確かなことは言いたくありませんが、もし、もしも、そうだとしても、ご家族の皆さんが朱里ちゃんの成長を理解し、支えていただきたいと思います。私ではお力になれることは限られているかもしれませんが、何かありましたら、こちらまでご連絡ください」 医師は紙に自分の名前とプライベートの携帯電話の番号を書き、匠に手渡した。 二人はメモを見て、目の前にいる医師の名が遠藤だと、その時初めて知る。 遠藤の表情には自分たちに対しての同情や社交辞令は全く感じられず、彼の暖かい声かけに、匠と千景は落ち着きを取り戻すことができた。 「遠藤先生、ありがとうございます」 匠と千景は医師にもう一度頭を下げ、朱里の元へと向かった。朱里は二人に気が付くと、溢れんばかりの笑顔でこちらに手招きをしている。 「パパ!ちぃちゃん!」   千景は匠の隣に立ち、肩を震わせ涙を堪えている彼の手をそっと握りしめた。 貴方を独りきりにはさせない。俺が傍にいるから。 朱里の希望で昼食はファストフード店で済ませることにした。オモチャ付きのセットメニューでご機嫌な彼女。 「ほら、朱里、いただきますは?」 「うなうなう!」 「……どうぞ召し上がれ」 大好きなポテトを口一杯にほうばり、満足げな表情を浮かべる娘を匠は優しい目で見守っている。千景は、そんな親子の姿を見て胸が痛む。 堪らず、朱里に気取られない様テーブルの下で彼の手を取り、自身の手で包み込んだ。 昼食を取り終えてから、発達検査を受けるため白川小児科医院へと向かった。検査は30分程で終わり、間なしに検査結果を告げられた。
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