第11話 2人の傍にいたいから。

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第11話 2人の傍にいたいから。

匠さん、さっき私たちって言ってくれてたなぁ。彼の心の中には俺もいるんだ。朱里のママって思ってくれてるのかな。 匠にとって自分の存在が大きくなりつつあることに喜びを感じる一方で、何を優先すべきか分かっていた千景は、感情の狭間で揺れ動く。 匠さん、ごめん。貴方を好きになっちゃってごめんなさい。でも、大丈夫だよ。朱里と匠さんの家族でありたいから。二人の傍にいたいから。俺は貴方との境界線は超えないって決めたんだ。 千景は自分の隣で気持ち良さそうに眠る朱里の寝顔を見つめながら、匠への想いを胸にしまい込んだ。 それから慌ただしい日々が続いた。週末はデイサービスを利用して児童発達支援の幼稚園に通いながら、朱里と一緒に一般的な幼稚園もいくつか見学した。もしかしたら、そこに入園したら他の園児たちと同じように話すことができるようになるかも知れない。そんな淡い期待も捨てきれなかったからだ。 境界線級の子どもを受け入れていれてくれる一般的な園も何ヶ所か見付けたが、そこでまた、迷いが生じる。 言語発達に一年六ヶ月の遅れがあると分かっていながら、無理に背伸びをして一般的な園に通わせることが朱里にとって良いことなのだろうか。彼女にとって過ごし易い環境を整えることが自分たちがすべきことではないのか。 何度も自問自答を繰り返し、半年が過ぎた。 二人で話し合いを重ねた結果、週末にデイサービスで利用していた児童発達支援を兼ねている幼稚園に朱里を入園させることに決めた。それが今の朱里にとって最善の選択であり、彼女の幸せのためだと信じたからだ。 朱里が成長するに連れ、選択を迫られる時が何度も訪れるだろう。たとえ厳しい現実に突きあたったとしても、朱里と一緒に乗り越えていこう。二人はそう誓い合った。 明日は朱里の入園式。当分は忙しくなるので今日は三人でピクニックに行くことにした。朱里がベッドで寝ている中、匠と千景は朝早くからお弁当作りに勤しむ。 千景の匠への想いは収まるどころか日を追うごとに募っている。それでも今の関係を壊してしまうぐらいなら、自分の気持ちは隠し通すつもりでいた。 そう、この瞬間までは……。
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