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第3話 慰めるという名目。
俺が匠さんを抱き締めたのは下心からではなく、彼を慰めたかっただけ。自分が傍にいることで少しでも彼に癒されて欲しかったから。そう思っていたのに。
え?今、この人俺に何してくれちゃった?
キスだよね。ほっぺとはいえ、立派なキスですよね?
匠さんは泣いてしまった俺を慰めようとしてくれたんだな。優しい人だからね。他意はないってことぐらい俺にだって分かりますよ。この人俺の気持ちに全く気が付いてないしね。
分かっちゃいるけど、こんなことされたら期待しちゃいますよ。この機に乗じて俺もキスしちゃおっかな。匠さん鈍い人だから変に思わないはずだ。慰めるって立派な名目もあるしね。
千景は一大決心よろしく、潤んだ瞳で匠を見つめる。
「匠さん、姉ちゃんはもう戻ってこないよ」
「うん、そうだろうね」
「俺、今日からここで暮らしてもいい?」
「俺は助かるけど、……いいの?」
「うん!もう荷物も持ってきちゃった」
「ふふっ。じゃあ、お言葉に甘えてよろしくね」
「それと……」
「ん?」
「匠さん、俺も貴方を慰めていい?」
「今でも充分慰められてっ、ん、んっ……」
匠が言い終える前に千景は彼の唇を塞いだ。突然の口付けに驚いた表情を浮かべている彼を尻目に千景は自分の両手の平で匠の頬を包み込む。触れては離れ、触れては離れと、何度も唇を当てがった。
「はぁっ……」
匠の吐息が漏れ、わずかにできた隙間に舌を滑り込ませ、咥内の歯列を舌でなぞる。すると、今度は彼の方から自分の舌を絡め取り愛撫するかのように舐めしだいてきた。
2人の唾液が混ざり合い、ぴちゃっ……ぴちゃっ……と、歓喜の音を奏でていく。千景はその甘い味に酔いしれた。
もしかして、匠さんも俺のことを少しは好きだったりして。
彼の咥内を貪りながら期待で胸が熱くなっていると、不意に舌を抜かれ頬にそっと口付けをされた。
「千景君、もう充分だよ。ありがとう」
「へっ?あ、はい」
もうお終いって……。これからがいいところじゃないの?
「俺の部屋で良ければ使って。おやすみ」
「おやすみ……なさい」
匠は無邪気な笑顔で千景の頭をもう一度撫でると寝室へと姿を消した。
そりゃねーーよ!匠さーーん!!
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