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第6話 初めて耳にする言葉。
健診場所の保健センターに着くと既に10名程の子供達が保護者と一緒に待機していた。程なくして、健診が始まり、身長・体重・虫歯の有無・視力聴力検査等を順に行う。全て以上なしと診断され、ほっと胸を撫で下ろす。最後に問診を受けて健診は終わるはずだった。
向かい合わせに座っている医師が朱里に幾つか簡単な質問をした。
「今日は誰と一緒に来たのかな?」
「パパ、ちぃちゃん」
「どうやって来たのかな?」
「パパ、ちぃちゃん」
「朱里ちゃんは、今、何歳?」
「……」
朱里は何も答えずに、指で三と表現する。
「朱里ちゃんのお名前は?」
「しゅり」
「苗字は?」
「しゅり」
「うん、分かったよ。じゃあ、先生はパパとお兄さんと少しお話があるから、朱里ちゃんはみんなと遊んでてね。」
「うん!」
朱里がオモチャで遊んでいる子供たちの元へと嬉しそうに走っていくと、医者は匠の方を向き、話しを始めた。
「お父さん、朱里ちゃんの様子を見ていて、何か他のお子さんと違うなとお感じになられたことはありますか?」
「違うところですか?……そうですね。特に思い浮かびませんが、強いて言えば他のお子さんより少し話すのが上手ではない気がします」
「そうですか」
「あっ、食事の時に頂きますを何度教えても、うなうなうって言ってます。あとは、単語だけしか言わない時もあります。でもまだ三歳だから、それぐらい普通ですよね?」
俺は2人の会話を聞きながら、医師の微妙な表情に不安を感じたが、匠さんは気が付いていない。
「お父さん、朱里ちゃんの掛かりつけの病院をご存知ですか?」
「はい、知ってます。白川小児科医院です」
「白川小児科医院ですか。あの病院でしたら、週に一度、臨床発達心理士の方がみえていますので、あちらで一度、娘さんの発達検査を行ってみてください」
臨床発達心理士、発達検査、初めて耳する言葉に二人は戸惑う。
「……え?先生、それはどういう意味ですか?」
「確かではありませんが、お子さんは言語発達障害の疑いがあります。ご家族の皆さんで相談されて、早い内に検査をされた方が良いと思います」
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