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――『嗣子、長男の護が亡くなった今、この千歳家を継ぐのはもうあんたしかおらんで、よろしゅうたのむで』
私の祖父は、死ぬ直前まで千歳家の行く末を案じていた。
千歳家は、昔は豪農だったのだが、農地改革と少しずつ売り払ってきたことで田んぼが減り、今ではわずかとなっていた。
祖父は、田畑よりも大事なこととして、あるものをいつも気に掛けていた。
『嗣子、『おしらせさん』だけは、他人に知られずに護っていくんじゃよ』
『おしらせさん』とは先祖代々受け継いだ千歳家の家宝で、神棚に祀られた豪華な着物を着た日本人形なのだが、体内に神さまが宿られており、不思議な力で千歳家を護ってくれると言い伝えられていた。
おしらせさんの体内を開けて見ることは禁忌であり、人形に触るのも当主のみ。
それを破ると祟りがあると言われていた。
おしらせさんの不思議な力とは、千歳家に災難が起きる前になると、カタカタと鳴って知らせてくれることだ。
体内におられる神様が、動いて知らせてくれるのだそうだ。
それで、『おしらせさん』と呼ばれている。
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