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祖父が元気だったころ、嗣子と護に、おしらせさんの不思議な話を繰り返し聞かせた。
第二次世界大戦中の話として。
『おしらせさんがカタカタ鳴ったのでおしらせさんだけを持って防空壕に避難すると、家に焼夷弾が落ちてきてすべて燃えてしまった。避難していなかったら全員死ぬところだった』
終戦直後の混乱期の話として。
『カタカタ鳴った直後にセールスマンがやってきて、儲け話を持ち掛けた。軍手を編む機械を買って生産すれば、全部買い取るという話だったが、おしらせさんを信じて断った。親戚にも伝えに言ったが、ほとんどが契約したあとだった。おしらせさんの話をしてすぐ解約させたが、大層な違約金を取られたと恨まれた。親戚以外の村人たちはほとんどが契約していて、軍手をせっせと作った。ところがあのセールスマンは二度と現れず、買い取ってもらえなかった大量の軍手は在庫となり大損した。材料費に機械の借金。それらは違約金よりもずっと多額で、村は廃れ、多くのものは田畑を売って引っ越した』
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