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4.
病院の待合室の隅っこで肩を並べて座り、柴田は美和が落ち着くのを待ってから口を開いた。
「おれのことなんて聞いたの?」
「車の事故に巻き込まれたって」
「ええー? それは驚くよね……」
「ちがうの?」
柴田の説明では、子供が自転車で信号待ちの車にぶつかる事故を目の前で見たため、目撃者として警察に話を聞かれたり、一緒に病院に付き添ったりすることになった、ということだった。
子供の怪我も軽い打撲程度で、親が駆けつけてきたのでその場を離れて帰るところで、美和を見つけたのだった。
たしかに、間違いではないけど……。
美和は、スマホにLINEの着信があるのを見つけ、依子からのメッセージを開いた。
『美和ちゃん、大げさに言ってごめんね。
二人で思ってることちゃんと話をしてね』
そういうことか……。
納得した。依子は全て知っていてわざとあんな伝え方をしたのだ。
他部署の里紗も気付いているくらいだから、美和や柴田を含め営業部員全体の母親役のような依子が、美和と柴田の関係に気付いていても不思議ではない。
今日二人の間で何かが起きたことも完全に見抜かれていたのだろう。
「それ……、ごめん。おれのせいだよね」
柴田が、そっと美和の手首の青痣に指先で触れた。
自分が嫌になる。
「最低なことしてケガさせた」
「ううん」
美和は首を左右に振って、平気、と答える。
「こんなことすべきじゃない。本当にごめん」
「それだけ私が柴田くんを傷つけたってことだから」
美和はあの時の柴田の表情を思い浮かべた。
もう絶対、あんな顔させたくない。
「私こそ、ごめんなさい」
美和は顔を上げて、まっすぐに柴田を見た。
「どうでもいいなんて思ってないよ。あんなことで終わりにしたくない。一番大事なのは柴田くんだから」
また会えて、謝るチャンスがあって、本当によかった。
依子から話を聞いてからここに来るまでの気持ちを思い出してしまい、美和の目が再び潤んだ。
「美和さん、大丈夫、大丈夫だから」
柴田は美和の肩に手をまわして、抱き寄せた。
再びうつむいた美和の頭に頬を押しあてて、もう一度、大丈夫、とつぶやく。
二度と、こんなふうに泣かせたりしない。
「安心したら涙腺こわれた。おかしいよね。ごめん。もうー」
美和は自分でもなんだかおかしくなってきて、泣き笑いになった。
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