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5.
外に出ると、雨は上がっていた。
まもなく夜を迎える空には、水彩絵の具の筆で自由に描いたような雲が浮かび、夕陽の残り火で桃色に染まっていた。
二人でしばらく立ち止まり、黙ってそれを見上げていた。
美和は隣に立つ柴田の手を握った。
柴田もそっと握り返す。
こんなふうにきれいな空を見られる瞬間に一緒にいられるのは、今まで思っていたよりずっと奇跡なのだと思う。
「一緒に、いっぱい、いろんなものを見たり、いろんな場所に出かけたり、したいね」
美和は柴田の横顔を見上げて、言った。
柴田も美和を見下ろして、うなずく。
ぐー。
突然、柴田の腹の虫が盛大に鳴いた。
美和が吹き出す。
柴田は少し赤面しながら、つないだ手を振った。
「そうだ、今日昼も食べそびれたんだったー。
美和さん、腹減った。早く何か食べよ」
柴田に急かされ、二人で歩幅をそろえて歩き出す。
「柴田くんは何食べたいの?」
「このあたり、何があるんだろ? とりあえず早く駅の方に行こう」
「うん」
この空を、覚えておこう。
美和は、そっと心のシャッターを切った。
二人で一緒に見た景色を、うれしい瞬間を、何気ない会話を、できるだけたくさんストックし続けたい。
一緒に過ごすことのできる時間を、お互いに大切にしていきたい。
そう思った。
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