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小原は中央に置いた煮物に箸をのばしつつ答える。
「あれはね、『紙』というんだよ」
「かみ?」
向かいに座りきょとんとする河西。
「見た事がないのか。無理もない、紙の文化なんてすっかり消えちまったからな。物を書く道具だよ」
咀嚼しながら、小原は作業着のポケットからスマートフォンを取り出した。
「今じゃあ文字のやりとりはこうやって打ちこんで送るものだし、漫画や小説を読むのだってタブレット端末でできるだろ?昔はあの『紙』って道具に書いたり印刷したりしてたんだよ」
「ええっ?不便じゃないですか?」
河西は箸を持ったまま目を丸くする。
「そう。昔は当たり前だったけど、不便だったよ。かさばるし、何枚にも渡って書かれてる情報を持ち歩くのは重いしね。電車内で新聞を読むのにも大きな紙を広げなきゃならなかったり、小説や詩を読みたい時は大抵束ねてあって『本』っていう物になってたんだが、場所をとるもんでね。たくさんあると棚に並べなくちゃいけなくて、部屋は狭いし掃除は面倒だし、破れたりもするし。地震が起きると倒れたりもしたな」
「うわ、危ないですね」
顔をしかめる河西に、小原は苦笑いをする。
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