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「段々と変わっていったんだよ。確か教育現場が最初だったかな。小さい子供に重い教科書何冊も持たせるのは酷だし、歴史の教科書とか、後から間違ってたってわかった時刷り直すよりデータの更新の方が手間がかからない。どう考えてもデジタル教材の方が理にかなってるんだよね」
「教材以外でもそうですよね?」
河西も煮物をつまみ、「これあっためた方が美味しいかも。あっためちゃいますね」と言って鉢を持ち、席を立った。備えつけの電子レンジを操作する背中に小原が言った。
「そういうのと、一緒かもなあ」
「え?」
電子レンジの作動音が響く室内に視線を巡らせながら、小原は語る。
「例えば……そこにある炊飯器なんかもそうだろう。今は3合炊くのに10分もあれば充分だが、昔はもっとかかっていたんだぞ」
「ええっ、それはまた不便な」
「俺がまだ小さい頃の話なんだが、母親が炊飯器で米を炊いてる横で、父方の祖母がくどくどと文句を言ってたよ。昔は火を起こすところからやって、丹精込めて炊いてたんだ。スイッチ一つで炊いた米なんか食えるかって。古い考え方の人でね、忙しい時にレトルトカレーなんかが出た日には温めて出すだけのものなんか料理とはいえん。厨房に立つ女だというのに包丁一つ使わないとは情けない。料理だけじゃない、昔はお湯を沸かすのももっと時間をかけてやっていたんだ、最近のがやっているのは家事とは言えん……って」
「随分凝り固まった考え方ですね」
温まった煮物をレンジから出し、河西は再び小原の向かいに座る。
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