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小さな頃から犬にはよく懐かれる。お祖父様にしか懐かなかった犬でさえも俺に懐いた。
「お久しぶりです、お祖父様」
「久しぶりだね、衛人。また大きくなったんじゃないか?」
小2の夏休み、俺は山奥にあるお祖父様の家を訪ねた。両親は常に家に籠り、勉強や稽古事に集中すべきだという考えだったが、執事がストレスを溜めて体調を崩したら本末転倒だからと5日間だけお祖父様の家へ行かせてくれた。
母方のお祖父様は両親とは違い、温和でマイペースな人で俺に厳しくあれこれ言う人ではなかったから俺はお祖父様に会う度よく戸惑った。
両親は幼かった俺を大人のように扱うのにお祖父様だけは俺に子供らしく生きて欲しいという考えだったからだ。
「ステファンもとても喜んでるよ。彼は衛人が大好きだからね」
「僕には鬱陶しいです。しつこいし」
「あはは。そう言わないでくれよ。私は最近ずっと体調が悪くて彼になかなかかまえなかった。だから、衛人には是非ステファンの遊び相手になって欲しい」
自分よりもずっと大きな白い懐っこい犬は今にも飛びついてそうな勢いで尻尾を振りながら幼い俺を見つめていた。
「良かったな、ステファン。衛人が来てくれて」
祖父の言葉に返事をするかのようにステファンはわん!と鳴いた。
お祖父様にステファンの相手をするよう頼まれた俺は屋敷の庭園でステファンと遊ぶ事にした。ボールを投げても投げてもステファンは俺の元に持って来ては投げろと急かす。
「しつこい……真夏だってのに何でそんな元気なの……僕、疲れたよ」
尻尾をヘリコプターのプロペラ並みに激しく振り回すのを見る限り彼は一向にボール遊びをやめる気は無いらしい。
ステファンと遊ぶ暇があれば、ピアノの練習をしてしまいたい。コンクールが間近だった。
幼かった俺は今思えば可愛げが無かった。常に頭の中はお稽古事と勉強の事でいっぱいいっぱい。父からの評価ばかりを気にしている。
俺は物心ついた頃には深見家の跡取り息子として、一人の人間として扱われていた。子供扱いなどされた経験は無い。だから、遊べと言われると、罪悪感さえ感じる。
遊ぶという行為は許されざる行為だと認識していた。稽古や勉強の妨げになると、友人を作る事すら許可されなかった俺は遊び自体無縁だった。
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