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もうすぐホワイトデー。
先日のバレンタインデーで桜坂に人生初のチョコレートを貰った俺は勿論お返しをするつもりだ。
とはいえ、ホワイトデーなんか無縁だった俺には分からない事だらけだった。
「そうだ、前に客から貰った有名店のマシュマロの乗ったタルト絶品だったな。あいつも好きそうだよな」
執事に言って取り寄せて貰おう。一流シェフの料理しか食べて来なかった俺が美味いと思うんだ、間違いはないはず。
やっぱり渡すなら確実に美味いものだろう。この時、俺は自分の無知さを恨む事になるとは思いもしなかった。
「桜坂、今日もたくさん裁いたな」
「はい! 動悸が激しく……」
「大丈夫かよ?」
ホワイトデー当日も風紀委員会の仕事で忙しかった。
「衛人様のお仕置き録画出来たら良いのに。今日たくさん見れたのに」
「何ぶつぶつ言っている? ほら、ご褒美をやる。頑張ったご褒美」
俺はマシュマロタルトが入った紙袋を桜坂に渡す。
「えっ?」
「ホワイトデーとやらだからな、今日は」
「あ、ありがとうございます!」
「マシュマロタルトってやつだ。前に来客から貰って美味かったから……」
「マシュマロタルト……?」
桜坂の表情が青ざめる。
「何だよ? 気に食わないのか?」
「いえ、そういうわけでは! 食べるの楽しみです……」
「腹でも壊してやがるのか?」
「ち、違います! 風紀委員の仕事疲れたみたいで。駄目ですね、私! あの、今日は先に帰りますっ」
「おい、桜坂!」
逃げるように走り去る彼女に唖然とする俺。
「ホワイトデーってああいう空気にならないはずだよな?」
マシュマロが嫌いだったとか? いや、前にチョコレート入りマシュマロを食べてやがったな、鈴宮と。
いくら勉強は出来ても、あいつの事だけは全く理解出来ない。
「何なんだよ?」
もやもやした気持ちを抱え、一人で帰る。
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