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「お父さん、あのね……僕、お父さんと遊園地に……」
「そんなくだらない所に行って何になる? お前には遊ぶ事等許されない。教養が大事なんだ。常に勉強に時間を費やせ。この間のテストの成績を忘れたのか?」
「ごめん……なさい」
俺は息子に常に厳しく振る舞い続けた。
「秀くん、そんな言い方は……」
「響子、お前もお前だ。甘やかすな。衛人は深見の跡取り。甘ったれの子供は要らないんだ、俺は」
「お父さんは……僕が嫌いなんですか?」
「何故そんな事を聞く?」
「だってお父さんはいつも僕に冷たいから……」
「衛人。俺はお前に期待して言っているんだ。失望……させて欲しくないんだよ」
息子の為だ、全部。
俺は散々地獄を見てきた。
ライバルだって散々蹴散らして、深見グループをより大きな会社にした。力をつける為に様々な犠牲を払った。
父と同じように。
「貴方……貴方はやはりあのお義父様の息子ね」
「響子、お前は深見の人間じゃないから理解出来ないんだ」
「衛人を愛していないの? 貴方は……」
「疲れたから寝る。お前も明日は仕事なのだから早く寝なさい」
「貴方!!」
そうだ、俺は結局あの父親の息子だ。
息子に恨まれても仕方のない最低な男だ。
「まだ若かったのにね」
「入院中、息子さんがずっとつきっきりだったんでしょう? まだ9歳なのに可哀想ね」
葬儀場に入ると、小さな背中が棺にしがみついている場面がすぐ目に飛び込んで来た。
「旦那様……」
最近はずっと見ていなかった彼女の笑顔の写真が祭壇に大きく飾られている。
「お父さん……どうして……どうして今来たんですか! お母さんはずっと……」
衛人は俺を睨みつける。
「帰るよ」
「父さん!」
「あいつも俺に来て欲しくは無いだろう」
「どうして……こんな時ぐらい側にいろよ。父さん……」
俺は彼女を幸福に出来なかった。
裏切った。
きっと恨まれているに違いない。
あの結婚は失敗だったと……。
「旦那様、本日は……」
「いつも通り、墓にひまわりの花束を備えておけ」
「旦那様、今年も行かれないのですか!?」
「毎年同じ事を言わせるな。俺は行かない。もう新しい妻がいるし、あいつも来られたら迷惑だろう」
「旦那様……」
ずっと十字架を背負って生きているような気分だ。
だけど、今やる事は息子を立派な跡継ぎへと育てる事。
邪魔者は排除する。
息子には俺が決めた相手と結婚して貰う、絶対に……。
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